医療の「翻訳家」を目指して【市川衛】

医療・健康の難しい話を、もっとやさしく、もっと深く。

TOKYO FM「TIMELINE」出演

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昨夜ですが、TOKYO FM の 「TIMELINE」に出演させていただきました。

医療とAIの今後についてお話ししました。

 

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医療とAIに関しては、2014年に制作したNHKスペシャル「医療ビッグデータ」で取材してから興味をもち、細々と取材してきました。

NHKスペシャル | 医療ビッグデータ患者を救う大革命

 

今回、この分野に詳しい医師の沖山翔さんとの取材を通じて記事を書いたのですが、それにディレクターさんが興味を持って下さったようです。

ブログ 沖山翔 – 未来はどちらを向いているか

news.yahoo.co.jp

 

医療分野にAIがいかに入るかについては、興味のあるところですよね。

 

わたしは、AIは医師など専門職を代替する存在ではなく、医療者の「道具」として活躍することで、サービスの向上につながるのではないか、という見込みを立てています。そう思う理由についてお話ししました。

 

MCの飯田泰之さん、そしてアナウンサーの古賀涼子さんにはとてもリラックスした雰囲気を作っていただき、時間を気にせず自由に話させていただきました。さすがプロ。いつも私は生放送を「出す」側ですが、「出る」側になってみたことで、すごく新しい経験ができたと感謝しております。

 

内容にご興味あったら、来週の水曜日(2018年1月3日)までは下記のアドレスで聞けるようです。よかったら聞いてみてください。

※放送開始後、27分後くらいからです

radiko.jp

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出演前で緊張するわたくし

座間の事件の実名報道について、自分なりに考えたこと

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19のいのち ー障害者殺傷事件ースクリーンショットより

 

 座間の事件の被害者のご遺族が「本人及び家族の実名の報道(中略)一切お断りしています」と貼り紙をしたにも関わらず、被害者の方の実名を挙げて貼り紙のことを報道した記事に批判が集まっていることについて、考え続けています。

 

 わたしもマスコミに属している人間の端くれとして、何か事件があった時に実名を報道する意味は知っています。
 それは事件の悲惨さや、それが問いかけているものについて伝えたいと願うからです。被害者が名もなき人ではなく、かけがえのない人生を歩んできた「存在する人」だと示すことで、その事件の持つ意味を多くの人に知ってほしいからです。

 

 でも、今回のように遺族が明らかに実名報道を望んでいないとき。あえてどうしても、その手段をとらなければならないのでしょうか。

 『その事件のもつ「意味」を伝える』ことが本来の目的だとすれば、それを別なやりかたで実現する道はないのでしょうか。

 

名前を出さなくても、「意味」を伝える

 

 たとえば去年7月に、19人の命が奪われた「津久井やまゆり園」の事件がありました。その際、ご遺族の要望もあったということで、被害者のかたの実名は報道されませんでした。

 

 なぜ「やまゆり園」は実名報道されず、座間の事件はされているのか。それについても考えなければならないと思います。

 

 でもとにかく、色々な議論を経て「実名報道しない」という結論になったとき。それで終わりでしょうか。だとしても、その事件がもつ「意味」を残すことはできないのでしょうか。亡くなった方は「名もなき人」ではなく、ひとり一人がかけがえのない人生を歩んだ存在だったということを示せないのでしょうか。

 

 その問いの回答を、見事に示したサイトがあります。

www.nhk.or.jp

 

 わたしはこれって、すごいことだと思います。ネットやSNSが存在する前であれば、こういう表現方法はあり得ませんでした。つまりいま「表現手段」が多様化しており、それを総動員することで、「ご遺族のお気持ちに寄り添いつつ、本来の目的を果たす」ことができる時代になりつつあるのです。

 

 今後のマスメディアに求められるのは、その多様化した手段を用いて、より当事者の気持ちに寄り添いつつ、「目的」を果たす方法を死ぬ気で考える、ということかもしれません。大変ではありますが、いっぽうでワクワクする挑戦のような気もします。

 

 とはいえ、「そんなキレイゴトことを言っても、読まれてなんぼだよね」「これってコストかかるし、ペイしないよね」という意見もあると思います。それに反論できる強さも理論もわたしは持っていませんし、正直言って、そういう論理にときに流されてしまうこともある自分です。

 

 でも、少なくとも「これって本当にまっとうなことなんだろうか」「手段が目的化していないだろうか」と考え続けることだけはしなければならないと思います。

 

 迷い迷いながらでも、考え続けます。

「コミュニケーション」は、もしかすると薬や手術と同じくらいに、誰かを幸せにすることにつながるかもしれない

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とても光栄なことに、来月、慶応大学湘南藤沢キャンパスの学生さん向けに講義する機会をいただきました。

 

で、どんなことを一緒に考えたら、何か本当にちょっとしたことでも持ち帰ってもらえる「お土産」になるのだろうかと頭をひねった挙句、こんな感じの講義を考えてみました。

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慶応大学「未来構想WS」講義概要   

 

「コミュニケーション・デザインでヘルスケアを変える」

 

 いまヘルスケアの領域において「コミュニケーション・デザイン」が注目されています。

 ヘルスケアにおけるコミュニケーションとは、例えば医療機関における患者ー医療者関係や医療者ー医療者関係があります。さらに、自治体などが広報誌などを通じて公衆衛生に資するメッセージを出すこともコミュニケーションです。

 近年ではネットやSNSなどの普及により、患者さんがブログなどを通じて同じ病を抱える人と交流したり、医療の専門家が自ら医療知識を発信するなど、コミュニケーションの姿は多様化しています。

 

 他方でヘルスケアの全体の状況を俯瞰してみると、医療技術が進歩したことで感染症など「治せる」病の多くは対処できるようになっているようです。いま問題となっているのは、生活習慣病認知症、そして衰弱(フレイル)など「治せない」ゆえに「長く付き合わざるを得ない」病(状態)への対策です。この「治せない・付き合う」状態と向き合う場合には、患者さんの生活習慣がどうすればより良く変容するか?とか、長期にわたる薬の服用をいかに継続してもらうか?などが課題となります。その解決に「コミュニケーション」が重要となりますが、じゃあ、どうすれば良いのか?それをデザインする手法は、あまり研究が進んでいません。

  

 本日の講義の中心議題はそこです。新たな薬や手術などの医療技術の開発を待たなくても、コミュニケーションの方法を工夫することで、いまそこにある課題を解決できないか?という点です。例えば、「長引く痛み」に悩む人は2000万人を超え、大きな社会的課題になっていますが、コミュニケーションを工夫することで痛みに悩む人を減らしたという事例があります。また、例えば小児のMRI検査は身体的・精神的な負担が大きく問題になっていますが、それをコミュニケーションの工夫だけで解消した事例があります。

 新しい薬や医療技術の開発はとても大切です。でも、ものすごく多額なコストと長い開発期間が必要です。一方でコミュニケーションの工夫は、いますぐにできます。そして、薬や手術を開発するのともしかすると同じくらいに、そこにある課題を「改善する」ことにつながるかもしれません。

 

 今回の講義は2回構成になっています。1回目の講義では、ヘルスコミュニケーションの「デザイン」によって課題を解決した海外の先駆的な事例をいくつか紹介します。その後、いま現在日本のヘルスケアで起きているいくつかの課題に関し、コミュニケーションによって改善しうる方法があるか、いくつかのグループに分かれてワークショップ形式で議論します。

 

 2回目の講義では、1回目の議論を踏まえて各グループで考えた課題の解決に資するコミュニケーションの工夫について発表してもらいます。その後、コミュニケーションをデザインする際にどのような視点が必要なのか?マスメディアの現場にいる講義者の経験をもとに得たノウハウをお伝えします。

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もし良かったら、「こうしたほうが良いよ!」的な助言とか、「もっとこうしたらワクワクする!」というようなアイデアをいただけたら幸いです。

わたしより遥かに若く、はるかに未来がある学生さんたちに、「こんな講義、聞いてみたい!」と思っていただけたらと思っています。

連載始めます

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【連載始めます】
 総合診療医むけの雑誌「Gノート」(羊土社)で連載を務めることになりました。

 題名は下記です。

 

「伝える力」で変化を起こす! ヘルスコミュニケーション 医師×医療ジャーナリストが考える臨床でのコツ:Gノート - 羊土社

 

 へルスコミュニケーションって、なんか最近よく聞く言葉ですが、あまり構えて考えるのではなく、医療現場でのコミュニケーションで困る部分(たとえば患者ー医師関係)に関して、こんな方法がありますよ!ということをお知らせするものです。

 

 共著者の柴田綾子さん(淀川キリスト教病院 産婦人科)のキャラクターもあって、非常に役立つ&気軽に読める感じに仕上がっていると思います。

 1Pめだけサンプルが公開されていますのでよかったら。

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 連載の狙いについて個人的な部分をちょっとだけ語ると、ご存知の通り、いま治療を受けに病院に来る人の多くを占めるのは「生活習慣病」です。つまり、簡単に言うと「すっかり治る」ことはなく、「ずーーっと付き合っていく」種類の病気ですね。こういう種類の病気の治療を考えた場合、長く、その人の生活まで理解して治療するための「コミュニケーション」が重要になります。(簡単に言えば、その人に「嫌われない」ことが大事だったりする)

 

 ただいまの医学部教育について(これは全く個人の感想ですが)まだ以前の、例えば感染症などが原因で病気になる人が多かった時代、「しのごの言ってないで、治す!」という職人的な文化がまだまだ残っており、コミュニケーションをどうつないでいくか(例:同じ情報を伝えるんでも、こっちのやり方のほうが良く伝わるし、患者さんが自分で何かやってみよう!と思わせる)という部分のトレーニングってまだ十分には足りていないのではないかなーと思っています。

 

 今回の連載では、総合診療医というまさに現場で取り組む若き医師の皆さんに、「コミュニケーション」に関する考え方についてこんなものがありますよ、ということを過去の研究や実際の取り組みをベースに知ってもらえればと。

 

 でもいわゆる教科書的なものではなく、「そうそう、あるある!」「これ困ってんだよねー」的な、現場でのあるある感やお役立ち感を何より重視して進めていこうと思っています。その先に、「ああ、もしかしたらコミュニケーションって、薬に関する知識なんかと同じくらいに、大事にしていかなければならないものなのかなー」って、一人のかたでも良いので感じてもらえたらと思っています。

 

 いずれにせよ、専門家でもなんでもないのに、医師むけに偉そうなことを語らせていただける場があるなんて、ちょっと前の自分には考えられないことでした。チャンスをくれた共著者 柴田さん、そして羊土社の松島さんありがとう(T_T)

 

 雑誌の発売は10月2日(月)です。
 もし万が一、少しでも興味を持ていただいたとしたら、下記リンクから詳細を見てみてくださいませm(_ )m。

www.yodosha.co.jp

 

 そういや似顔絵を描いてもらったんだけど、これ、似てるんでしょうか。。。自分ではもはやわからない。。。

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医療×IT 医療ITは”患者体験”を変えるのか?

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やばい1か月も更新していなかった・・・。

 

空気調和・衛生工学会誌に寄稿しました。なじみのないかたが多いかもしれませんが、会員数15000人超で工学系としては日本で10の指に入る規模の学会です。(空調設備の「空調」って、空気調和の略だったんですね。それを知れてなんだか得した気分になりました)
なんと100周年記念誌の特集ということで、本当にわたしで良いのか…と思いましたが何事も挑戦。

 

「医療×IT」というお題をいただいたので『ビッグデータやAIなど最近注目されてるけど、「患者サービス(患者体験)の向上」という本来の目的を忘れないことが大事』というようなことを書いております。スミマセンえらそうで。

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ザルツブルグでインタビューした、パーキンソン病の当事者のサラ・リガルさんのことも報告できてよかった。どれだけ多くの人が読んでくれるかはわかりませんが、「これは広めるべきアイデアだ」と思ったことを活字の形で遺せるのは本当に有難く、うれしいことです。機会を与えてくれたみなさまに、感謝です。

 
ここ数年、できるだけ学会誌への寄稿や学会発表をするようにしています。正直、お金にも業績にもならないし、なんでメディアの人間が?と奇異の目で見られることもあるけど、こんな変なヤツがいることで、「メディアの人間」に対する固定観念や、取材者・取材対象者の関係性がちょっとでもよりよく変わればいいなとほんのり思ってます。。。

 

もしご興味持っていただけた方がいたら原稿PDFお送りしますので問い合わせフォームからご連絡くださいませ(^^)

 

ツイッターやっとります。よかったらフォローくださいー

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メディカルジャーナリズム勉強会について

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※ご興味を持たれた方、参加ご希望の方へのご案内です

メディカルジャーナリズム勉強会とは?

メディア関係者と医療者の有志が非営利に開催している、医療健康情報のよりよい発信手法について学びあう場です。

メディカルジャーナリズム勉強会 | Association of Medical Journalism

どんな人がいるの?

現在のメンバーは851人(2019年1月2日)となっています。医療情報の発信に興味があるかたに参加していただいています。

 

※メディア関係者:テレビ・新聞・雑誌・ネットメディア運営・フリージャーナリストなど

※医療専門家:医師・看護師・研究者など

 そのほか、医療健康情報の発信に興味のある方ならどなたでも入会いただいています。

どんな活動をしているの?

定期的に勉強会を開いています。内容や雰囲気の参考に、過去の登壇者や参加者による記事をご紹介します。

www.qlifepro.com

 

【ヘルスケア発信塾の開催】

 

2018年5月より、「ヘルスケア発信塾」をスタートさせました。

対象は、医療・健康情報の発信に携わる記者、フリーライター、ブロガー、編集者など。この分野の発信をするうえで欠かせない知識やノウハウを、第一線で活躍する講師&現役ジャーナリストから学べる少人数セミナーです。

peatix.com

 

セミナーの内容や問題意識については、下の記事が参考になるかもしれません。

mamoruichikawa.hatenablog.com

他団体との連携

東京大学の医療コミュニケーション学分野と共催で、「メディア制作者と医療者がつながる座談会」を2か月に1回、東京大学本郷キャンパス)で開催しています。

詳しくは下記リンクを。

becreativeforhealth.org

どうしたら参加できるの?

入会については、公式ホームページをご参照ください

メディカルジャーナリズム勉強会 | Association of Medical Journalism

 

また、Facebookグループページでも活動しています。FBでのご入会を希望される場合は、FBで「メディカルジャーナリズム勉強会」で検索していただき、「参加する」を押してください。その際に質問メッセージが出ますので、興味を持っていただいたきっかけや入会を希望する目的などについてお答えください

 

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利益相反について

※現在は全ての活動をボランティアで行い、イベントごとの参加費(会場代・軽食代など実費)以外の収入は得ていません。会合で余剰金が出た場合は、全額を次回の運営費として繰り越しています。

村上智彦先生の思い出 「全力少年」の生き方

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今月11日、村上智彦先生が亡くなられました。
北海道の瀬棚町夕張市における地域医療の取り組みで知られ、ご自身が白血病になられてからは、当事者としての発信もなさっていました。
 
個人的なことになりますが、もう10年以上前のこと、瀬棚町の診療所で村上先生が行われていた地域医療の取り組みを取材し、NHKスペシャルクローズアップ現代などでご紹介したことがありました。
 
当時のわたしの未熟さから、完璧に伝えきれたかというと正直、自信はないです。ただ矛盾や閉塞感が絡まりあった地域医療の現場で、熱意と実行力で次々と新しい取り組みを打ち出し、地域そのものの意識やしがらみを根底から変えようとした姿は、いまも鮮烈に記憶に残っています。
 
その経験はもしかすると、その後、わたしが医療や健康の情報を発信することを一生の仕事にしようと考えたきっかけの一つになったのかもしれません。
 
村上先生の訃報に接し、最後のご著書となった「最強の地域医療」を拝読して心に去来した思いを書き残しておきたいと思います。
 
 ※アフィリエイトなどはやっていません
 
本の内容は上記サイトから引用
夕張を変えた医師が「患者」になったら、都会にはできない医療が見えてきた−。医師であり患者である立場から医療の問題点や、高齢者医療、地方が抱えている医療問題の解決策などを語る。【「TRC MARC」の商品解説】

高齢者が病院を頼りすぎるから医療費は増加し、本来は不要な医療を受け続けている。夕張の医療改革を進めた医師が作る、新しい高齢医療の形。自身の白血病との闘病で見えてきた今の医療の問題点を明らかにする!【本の内容】

高齢者が病院を頼りすぎるから医療費は増加し、本来は不要な医療が生まれる。夕張の医療を改革した医師が作る、新しい高齢医療の形。【本の内容】」
 
読んでみた正直な感想です。
「その通り」と心から頷ける内容が大部分の一方で、私のようなものが不遜とは思いつつ、「正直、それは言いすぎなんじゃないでしょうか…?」と首をかしげる部分もありました。
 
でも、よくよく考えると、そこも含めて村上先生の魅力というか、「改革者」たるための類まれな素養だったのかもしれません。「批判」や「空気」に左右されず、こう思ったものはこうだと主張して実行する「熱さ」こそが、多くの人をひきつけて物事を「動かす」原動力になったのだろうと思います。
 
ご著書を読んで個人的に心動かされたのは、スキマスイッチの「全力少年」がテーマソングだと書かれていたことでした。2005年に発表されたこの曲の歌詞をあえて引用されたわけなので、きっと、とても好きでいらしたんだろうなと思います。実はこの曲は、わたしにとっても特別な思い入れのあるものだったので、またまた不遜なことながら、淡い親近感を抱きました。
 
この曲の発売当時、わたしはちょうど瀬棚町の診療所の取材をしていました。駆け出しのディレクターで、どうしようもなく独りよがりな番組しか作れず、取材先との信頼関係も築けず、上司には怒られてばかりで、自分の能力のなさや卑怯さに愛想が尽き、将来に絶望しかけていました。(技術の拙劣さはいまも恥ずかしいばかりですが、当時は正直、本当にひどいもんだったと思います。)
 
全力少年」は、そんな自分にとって防波堤でした。つらさや情けなさに心くじけ、壊れてしまいそうなときのためにMP3レコーダーに入れて、取材やロケの空き時間によく聴いていました。
 
村上先生がいらした瀬棚の診療所を取材した帰り、近くの空き地で「全力少年」を聴きながら自分を奮い立たせた日。北海道の遅い春の光や、風が強かったこと、匂いたつ草の香りに包まれたことまで克明に思い出すことができます。

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当時、村上先生はすでにピカピカに輝いていて、すべてに自信を持ち、物事を完璧にコントロールしていたように思えました。だからご著書で「全力少年」のエピソードを目にしたとき、正直、意外の念を抱きました。
この歌は、本来なら「大切なもの」を心に持っていたはずなのに、「怯え」によってそれを閉じ込めてきた人間が、少年の気持ちを取り戻して前に進もう!と自分を奮い立たせる内容だからです。
 
でも考えてみれば、あのころの村上先生は、現在の自分とそれほどは変わらないお年だったわけです。何かを変えようとして、でも根強い反対もあって、スタッフの暮らしも考えなければいけなかったりして、心のなかでは様々な葛藤や不安があったのかもしれません。
 
もしかしたらあのころ、村上先生も、情けないわたしと同じように「全力少年」を聴いて心を奮い立たせていたのだとしたらと思うと・・・、当時の自分はやっぱり、取材者として何もわかっていなかったのだと思わざるを得ません。
 
誰も完ぺきではないし、心のなかに不安や葛藤を抱いている。
だからこそ1mmでも「よりよく」するために、自分の置かれた環境で、できることを精一杯やりつづけるために「一歩でも前に」歩み続けるしかないのかもしれません。すみませんカッコよさげなこと言って。夜中のテンションをお許しください。
 
村上先生の訃報に接し、少し遅くなってしまったけれど、心から哀悼の意を表します。
「わたしも頑張ります」なんて言えるような身分では全くないですが、ほんの短い間でもご指導をいただいたことを忘れず、今後も精一杯やっていこうと思います。
安らかにお休みください。
 
 
試されてまでも ここにいることを決めたのに
呪文のように 「仕方ない」とつぶやいていた
 
積み上げたものぶっ壊して 身に着けたもの取っ払って
止め処ない 血と汗で 乾いた脳を潤せ
あの頃の僕らはきっと 全力で少年だった
 
セカイを開くのは誰だ?