医療の「翻訳家」を目指して【市川衛】

医療・健康の難しい話を、もっとやさしく、もっと深く。

医療・健康情報の懸け橋になるために 図書館ができること

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全国の図書館の司書さんたちが集まる年に一度のイベント、図書館総合展にてお話しさせていただきました。

 

改めて気付かされたのは、医療や健康情報の入手に図書館が大きな役割を果たしていること、そして、課題解決型図書館として積極的に利用者のニーズに様々な形で応えようとする取り組みが全国で行われていることです。

 

地域包括ケアが浸透していく中で、図書館も介護や医療の現場と連携し、情報提供という立場でその一翼を担って行こうとする熱意があることも知りました。

全国にはそれぞれの現場で取り組む素晴らしい人たちがたくさんいるということを改めて気づかされた次第です。

 

もう一つとっても驚かされたのは、図書館がどんどんと進化を続けていること。貸出返却資料の自動化はもちろん、カフェ風にデザインを工夫したり、ボードゲームカフェを開催したりして、図書を貸し出すだけの場所から、地域の人にとってのコミュニティスペースへと進化しようとしている動きがあるのかなと勝手に感じました。

 

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「知」の最前線にいる人たち

『医療・健康情報の“架け橋”になるために図書館ができること~がんを事例に考える~』

31日(水)に、図書館総合展@横浜パシフィコでお話しさせていただきます。

 

www.libraryfair.jp

 

わたし自身、本当に不勉強で存じ上げなかったのですが、全国の図書館のご関係者3万人以上が集まる年に1度の大イベントです。

 

最近、家の近くの図書館を良く利用するようになったのですが、本気で驚いたのが図書の貸し出し方法が以前と全く変わっていたこと。

 

何やらスマートな読み取り機械に、借りたい本を何冊でも、「重ねたまま」で置くと、一瞬でどんな本を何冊借りたかが表示され、貸出カードをかざせばそれで手続き終わり。ノンストレス。なんというユーザーフレンドリー。返却はもちろん時間外ボックスに返すだけ。

www.townnews.co.jp

※貸出機のことを取り上げた記事です。わたしは多摩在住ではありません(^^)

 

富むものも富まざるものも、平等に「知」に触れる機会を提供するために、進化を止めない姿に本当に敬服します。もちろん医療や健康の情報に触れるうえでも、とても大切な場であることは論を俟たないことです。

 

そんな知の最前線で真摯に取り組まれる方々に、お話しできる機会を与えていただいたのは本当に光栄なこと。。。

 

精一杯お話ししますので、もし万が一、いらっしゃれる方がいらしたらおいで下さいませ。入場無料、図書館・情報流通に関心をお持ちの方はどなたでもご来場いただけるそうです。

あたらしい1年にむけて

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いきなりですが、10月13日(土)をもって41歳になりました。

あれ?先月あたりに40歳になった気がしていたのですが。。。本当に1年って、早いもんですね。。。。

 

この1年は、いろいろと新しいことをするチャンスを与えていただいた一方、あまりのハードルに七転八倒して、自分のいたらなさに絶望することも有りました。とはいえ、まあ、無事に誕生日を迎えられて良かったと思います。

 

せっかくの誕生日なので、個人的な話を。

 

自分にとって今年って、「医療とか健康の情報発信を自分のメインテーマに据えよう」と思い立って、だいたい10年目なんですよね。

 

この10年、ひたすらにこの分野の番組を作り、大学院に在籍してみたり、ネット記事書いたり講演したり海外の大学で客員研究員をしたりと、色々なことをやりました。それを通じて、ひったすら医療とか健康の分野の取材と勉強を続けてまいりました。

 

それでつくづく思い知ったのは、

医療とか健康というめちゃめちゃニッチな分野でさえ、

表層だけでも理解するには、最低でも10年くらいはかかるのだな、ということです。

(まあ、わたしだけかもしれませんが)

 

10年かかるんです。

たとえば医師の働き方問題を語るのであれば、現場で真摯に働いている人たちに会い、ときには当直室に寝かせてもらって、その実情を知らなければなりません。

そのうえで、「応召義務」とはなんなのか?いつごろどんな議論の中で法律に取り入られて、どんな判例がこれまであったのか?という、臨床家の方がおそらくはあまり知らないようなことを勉強しなければいけません。

あと、診療報酬制度はもちろん、現場で働いている医師以外の職種のかたがたがどのような関わりをしているのか?というところも実感としてわからないと記事をかけません。

 

そこまでしないと、現場にいるかたの納得感を持って伝えることは難しい、ということを、10年たってやっと思い知ることが出来ました。

 

えらそうなことを言っておりますが、私自身、取材をしはじめたばっかりの時代は・・・とにかく見られたり読まれたりすることばっかりを考えて

 

※「夢の新薬が登場」というようなニュアンスの番組を作ったり

※福祉の分野で革新的な取り組みをしているかたの話を聞いて、「でも主役は医療だしね」という、非勉強極まりない感想を心に思ってしまったり

 

ということも正直、あります。

 

でも石の上にも10年、といいますか、10年いろいろな失敗を繰り返しながらもコツコツ続けていくと、あるニュースをみたときに、これこそが情報の「本質」だ!ということが見えてきたのではないか?と感じることが増えました(幻想かもしれませんが)

 

コツコツやり続けることは、自分を裏切らないなあ。。。と思います。

 

とはいえ、その一方で、「医療を伝えようとしたら最低10年修行すべし!!」

とか言う考えを主張するようになっちゃうと、せっかくその分野を目指そうとしてくれた若い世代のガッカリにつながり、今後の業界全体のシアワセにもつながらない気がしますので・・・

 

次なる1年のひとつの目標としては

 

※「あるテーマを精一杯取材し、取材対象者や読者のシアワセのために努力する」というプロセスは、取材者自身にかけがえのない「楽しみ」や「発見」、そして「成長につながる挫折」を与えてくれるかを、ワクワクできる形で後輩に伝えていく

 

※僕じゃないいまの若い人たちは、もっと短く成長できるよきっと!!

ということをお伝えしていけるようになる

 

ありがたいことに、発信者の後輩たち(メディア関係者、医療者)に偉そうにお話しできる機会をたびたび与えていただけるようになったし。

 

最近、SNSやリアルで、自分なんておよびもつかないスゴイ人と親交を持たせていただくようになって、自分の至らなさや情けなさを思い知った1年でもあるけど。。。

 

自分に出来ることを、むりせず、ただ淡々と続けていく1年になれればと思っています。ご関係の皆様、未熟者のお相手させてしまって申し訳ありませんが、あたらしい1年も、仲良くしてやってください!

 

何とぞ、宜しくお願いいたします

「政策を進めながら、検証する」ということの意義

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さいきん注目している、Lancetの姉妹誌でオープンアクセスの「The Lancet Public Health」より

https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(18)30183-X/fulltext

 The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study

 

2007年より子宮頸がん予防のためHPVワクチンを定期接種しているオーストラリアより、今後の子宮頸がん発症率と死亡率のシミュレーション。

要は、「『HPVワクチンにより本当に子宮頸がんが防げる』と仮定するなら今後、このくらいは減るはずだよね?」ということを、年齢別の人口や検診の受診率などを含めて推定した研究です。

 

2020年以降は、年とともに右肩下がりに減るはず、という予測を立てています。

 

個人的には、この研究のポイントは、「減るはず」とする結果そのものではないと感じます。


シミュレーションを出すことにより、予測通りに進めば「効果があった」ということが確かめられるし、そうでなければ「何かが間違っているらしい(HPVワクチンの接種により、子宮頸がんは防げないかもしれない)」ということが明らかになります。

 

要は「政策をいち早く検証できる」ということに意義があるのかもしれません。

 

研究の予算は、オーストラリア国家保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council )、つまり国の機関から出ています。


政策として新たなワクチンを導入する一方で、その効果を検証する取り組みが同時に進められ、しかもオープンアクセス(誰もが無料で見られる場所)に公開されていることが本当にすごい。

 

「9価ワクチンを接種した世代に子宮頸がん検診を実施することに意義があるかどうか」までシミュレーションしているところに凄みを感じます。。。

(ちなみに、「意義がある」と結論)

 

きょう読んだこの記事にも関連するのですが、

 

「国や公的な研究機関は、自らの意思決定(どの医薬品や研究にお金を投じたか)に責任を持つべきだし、それを検証して誰もが無料でアクセスできる場所に置くべき」

 

という考えは、まっとうだなと感じます。

r.nikkei.com

女性医師は迷惑な存在なのか?

8月末に公開した記事が

ヤフー!Japan個人のMVA(月間優秀記事)をいただきました。

news.yahoo.co.jp

 

ありがたいなあ。。。。

「こんなに心を込めて書いても、きっと読まれないんだろうなあ・・・

ひとりでも多くの人に届きますように」と思って公開ボタンを押した記事なので

 

そんな驚きの中で、つい熱くなって書いた

受賞コメントがこちらです

誰かを声高に批判したり、自分の考えを押し付けたりするのではなく、読んだ人がそれぞれに何かを感じて、前向きな議論に進むお手伝いになるような記事をずっと書きたいと思っていました。

 

入試不正のニュースが話題となっているタイミングで、わかりにくい部分もある本記事が多くの人に読まれたことに、驚きと感謝の念を抱いています。

 

SNSでこの記事を論評してくださっているコメントをひとつひとつ拝読し、もしかしたら、ほんのほんの少しだけですが、この問題に対し前向きな議論が起きるお役に立てたのではないかと感じています(幻想かもしれませんが)。

 

時差にもかかわらずドイツからインタビューを受け、内容確認にも真摯に対応してくださった岡本真希さんに心からの感謝をささげます。本当にありがとうございました。

 

せっかく受賞したのに、なんでそんな卑屈なの??

 

って編集者さんにも言われてしまったけれど

 

そういう人間なので仕方がない

 

まだご一読いただいていない方がいらしたら

どうかご一読くださいませ

 

news.yahoo.co.jp

むずかしいことをやさしく、ふかく、まじめに、ゆかいに

台風のスキをついて、那覇で「睡眠負債」をテーマに講演してきました。

 

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 睡眠の大切さや、日々の生活がちょっと豊かになるTips、笑いも出て盛り上がってよかった。。。

 

終わって国際通りを歩いていたら、「お話聞きました!」とわざわざ声をかけてくれる人までいて、至福であります

 

偉そうに難しげなことをお話しすることも増えたけど、やっぱり自分が目指したいのは「むずかしいことをやさしく、ふかく、まじめに、ゆかいに」お伝えできるようになることなんだと改めて実感。

 

実現に動いてくださったみなさま、そして何より、聞いてくださったみなさまに心から感謝。このネタは身近だし汎用性があると思うので、これからも機会があればお話ししていきたい。。。

 

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「伝える」仕事の奇跡と責任について

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今日は以前、お仕事で取材させていただいた企業さんの技術展覧会にお邪魔してきました。

 

番組と記事でご紹介したことがきっかけになり、問い合わせが殺到したことで、展覧会が企画されたのだそうです。

 

会場には日本有数の大企業から、海外の企業まで1000人近いご担当者が参加されて、熱心に技術の説明に耳を傾けていらっしゃいました。まだ生まれたばかりの技術ですが、もしかすると日本はおろか世界に出ていき、社会を変えていくのかもしれない、と思わされる熱気が漂っていました。

 

「このアイデアは、世に広めるべきだ」

 

わたしは何も生み出さない、「伝える」だけの立場の人間ですが、そう心から思ったときに、奇跡のようなことが起きることがあるんですね。
(残念ながら、力及ばず失敗することのほうが多いのですけれど。。。)

 

またこういう奇跡のような瞬間に出会えたらいいな。

 

そのためにも、アイデアを生み育て来られた人たちと時間をかけて議論することや、どうすればその本質が伝えられるかを死ぬ気で考えるような、ついつい忘れてしまいがちな丁寧さを大切にしていけるようがんばろう

 

と深夜にエモい独りごと投稿申し訳ございません。