医療の「翻訳家」を目指して【市川衛】

医療・健康の難しい話を、もっとやさしく、もっと深く。

「高齢ドライバーの事故は20代より少ない」への反響から

f:id:mam1kawa:20161122145225p:plain 一昨日Yahoo!Japanにアップした記事が、思いのほか多くの反響をいただきました。

ちなみに、記事はこちら。

 22日夜の時点で、FBで10000シェアを超えています。過去最高・・・

bylines.news.yahoo.co.jp

 いま高齢ドライバーの事故が多く報道されています。

 記事の中には、「◎年前と比べて65歳以上の事故の件数が増加している」という情報が書いてあるものもありました。

 それはもちろん、その通りなのですが、日本社会全体が高齢化しているので、件数が増えるのは当たり前かもしれません。むしろ変わらなかったら「ものすごく減っている 」ということです。

 それで、もう少しだけ詳しくデータが知りたい!と思い、警察庁がHP上で公開している統計をもとに思ったことを書きました。もとデータは下記からダウンロード可能ですので、よかったら見てみてください。

平成27年における交通事故の発生状況

平成27年中の交通事故死者数について

 

 さて記事に対しては、コメント欄・SNSなどで本当にたくさんのご意見をいただきました。「参考になった」などご好評を頂くものもあれば、「分析の至らなさ」をご指摘いただいているものもあり、全て勉強になりました。

 

 そのなかで、特に心に残ったコメントを2つご紹介します。

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 認知症に対する真摯な取り組みを続けられている、医師の笠間 睦さん(榊原白鳳病院)からは以下のコメントをいただきました。(個人的には、笠間さんが以前朝日新聞のサイトに連載されていたコラムが大好きだったので、本当に光栄です)

 2017年3月12日に「改正道路交通法」が施行され、免許更新時の検査で「認知症の恐れ」と判断されれば医師の診断書を提出しなければならなくなります。
 そこで私が最も心配するのが、この制度が周知されますと、もの忘れ外来を受診しようと思案している方が、認知症と診断されると運転免許の取り消し処分になることを知ってしまい受診抑制に繋がり、早期診断・早期治療というベネフィットが損なわれてしまいかねないという懸念です。

(中略)

 英国におきましては、認知症になったら実車テストがあり、5マイル(約8㎞)走行することができれば運転可と判断されている(https://medqa.m3.com/doctor/showForumMessageDetail747510.do)と伝え聞いております。

(中略)

 私からの具体的な提案としましては、免許更新時の検査で「認知症の恐れ」と判断され医療機関を受診された方に対して医師は、CDRが「1」か「2」だけを判断すれば良い(=これなら「かかりつけ医」でも可能であり認知症専門医でなくとも診断書を発行できる)ということにして診断する医師の負担軽減に配慮すべきだということが1点。
 そして、CDR2と判断されれば免許は取り消し。ただし、CDR1の場合には、全例において実車テストを実施し、合格すれば1年ごとの審査を条件に運転免許を交付するといったような具体案です。

【注】CDR(Clinical Dementia Rating)

認知症の重症度を評価するための方法。記憶、見当識、判断力と問題解決、社会適応、家族状況及び趣味、介護状況の6項目について、患者の診察や周囲の人からの情報で評価する。それらを総合して健康(CDR0)、認知症の疑い(CDR0.5)、軽度認知症(CDR1)、中等度認知症(CDR2)、高度認知症(CDR3)のいずれかに評価する。

http://www.aricept.jp/index2.html

 

 来年3月に改正道路交通法が施行されます。これまでも75歳以上のドライバーは免許更新の際に臨時の認知機能検査を受ける必要があったのですが、これからは、迷走や信号無視などの違反を犯した際にも臨時の認知機能検査を受けることになります。

 

 こうすることで、認知症に気付かず運転してしまう人を、重大事故を起こす前のインシデントの段階で拾い上げようというわけです。

 

 具体的には、臨時の認知機能検査で記憶力や判断力が(低い)(やや低い)(問題なし)のうち「低い」に分類されると、医師の診察を受け、認知症かどうかの診断書を提出しなければならなくなります。

 

 ただ笠間さんが心配されているのは、「認知症だと運転免許はく奪」というイメージが強くなりすぎた場合、リスクを抱える人が医療機関を受診するのをためらいはしないか?ということです。

 

 また制度上、認知症かどうかの診断は専門医でなくても下せることになっていますが(おそらく専門医だけでは数が足りないと予測されているからです)、運転が生活のかなめになっているケースも多い中で、免許取り消しにつながる判断を専門でない医師が下せるのだろうか?という声もあります。

 

 笠間さんが言われている、「認知症だったら一発アウト」ではなく、もっと弾力的な運用をしつつ、本当にリスクの高い人を拾い上げていくほうが良いのではないか?と言う視点に新たな気づきをいただき、とても参考になりました。

【参考】改正道路交通法の概要

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 https://www.npa.go.jp/koutsuu/menkyo/kaisei_doukouhou/leaflet_A.pdf

 

 また現在、スタンフォード大学で盛んなデザインシンキングの研究・実践で知られる見崎大悟さん(工学院大学准教授)からは、下記のコメントを頂きました

高齢ドライバーの問題をデザイン思考的に考えるとどうだろう?

(中略)

世間が注意を喚起するトップダウンではなく、ドライバー自らが気づき行動をおこすような仕組みを考えたいですね。「誇り」の象徴とは、まさに重要なインサイトの一つだと思います。

 デザインシンキングについてはこちら(英語です)

 d.school: Institute of Design at Stanford

 

 なぜ高齢者がアクセルブレーキの踏み違い事故を起こしてしまうのか?ということを考えた場合、そもそもアクセル、クラッチ、ブレーキのペダルが隣接している車のデザイン自体も、その元凶のひとつだということは容易に想像できます。

 

 高齢者が運転することが一般的ではなかった時代のデザインに固執するのではなく、新しい時代に合わせたクルマが開発され、それが安価に提供されれば、死亡事故をより減らせるかもしれません。

 

 免許返納に関しても、上から押しつけるのではなく、運転者自身が率先して免許返納をしたくなる仕掛け、というものが作れたら最高ですよね。

 

 高齢ドライバーに関する話題は「認知症」や「高齢でも安心して暮らせる地域づくり」など私にとって重要なテーマと密接に関わっているものだと改めて実感しました。

 今後も継続して取材を進めたいと考えています。