医療の「翻訳家」を目指して【市川衛】

医療・健康の難しい話を、もっとやさしく、もっと深く。

がんの「闘病」という表現を、再定義する

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画像:Pixabay

ツイッターのタイムラインに流れてきた投稿を見て知ったのですが、さいきん英語ではがんの「闘病」について

Battle against cancer(がんとの闘い)

ではなく

Cancer journey(がんとの旅路)

という表現を使うようになってきているそうです。

 

確かに、ググるとたくさんヒットします。

 

例えば2015年のCDCによる動画「カラ:私の、乳がんとの旅路」

www.youtube.com

 

闘いは、敗れたら終わり。

旅は、果てに何かを得ることもある。

 

より深い表現ではないかと思いました。

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画像提供:Pixabay

 

と、思ってCancer journeyに「がんとの旅路」と和訳を付けてFBでポストしたら…

ぶっちゃけ「ダサイ!」というご指摘を複数の当事者・経験者からいただきまして(泣)

 

たしかにそうだなあと反省した次第です

自分が当事者だとして「わたし、がんと旅してます」なんて、ちょっと気恥ずかしくて言えないよね

 

というわけで、まずはCancer journeyについての勉強開始

BMJ Supportive & Palliative Careのこの論文は、経緯がまとまっていて読みやすく、流れをある程度つかむことができました。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

Cancer journeyはイギリス発祥の表現

がんに対して「闘い」に代えて「旅」というメタファーを用いるようになったのは2007年の英NHSによる「Cancer Reform Strategy」が嚆矢とのこと。


がんに対して「闘う」という意識が強すぎると良くないのでは、という議論から出てきた動きだという。その後、英国のがんに対する公的な文章では、Journeyを用いるようになっているそうです。

 

一方、似た言葉に「Patient Journey」というものがあります。

ちょっと資料を調べた範囲では、マーケティング界隈のいわゆる「カスタマージャーニー」の病院版として米国などを中心に用いられているようです。

医療サービス提供者側が、どうしたら患者(ユーザー)のエンゲージメントを高められるか?という目線で用いられていることが多いように感じました。

 

つまりCancer journeyとPatient journeyはちょっと別物としてとらえたほうがよさそうだ、というのが現時点の私の理解です。

 

なお上記リンクの研究(2015年)は、当事者と医療者がオンラインで書いている文章を対象に、がんに対し「闘い」と「旅」というメタファーがどのように用いられているかを調べたものです。

 

結論としては、「闘い」をポジティブな意味で使うケースもあるし、「旅」をネガティブな意味で使うこともある。「旅」は良くて「闘い」はダメだ、と短絡的に「言葉狩り」してはならないのでは?という主張

 

4年前の時点でここまで議論が進んでいたとは。。。
いまさら知った自分、不勉強にもほどがあるぜ

 

 がんとの「闘い」ではないことばを見つけたい

 

「闘い」ではない、日本の文化や感じ方にも合う、新しい良い感じのことばってないのでしょうか。

 

がんでも、認知症でも、慢性の痛みでも、精神的なお悩みでも。付き合っていかざるを得ない状態って、「闘う」とはちょっとちがうイメージがあったほうが、当事者も家族も支援者も医療者も、ちょっとラクになれるんじゃないかと思うわけです。

 

ダサくない感じの、みんながついつい使ってみよう!って思える感じのことば

 

足りないなりに頭ひねって考えようと思いますが、「こんな感じのほうが良いんじゃないか」っていうものがあったら、思い付きでいいので教えてください。