「予防をきちんとしない人は医療保険を使うべきではない」というのは正しいか?
BLOGOS編集部のツイッターによれば、一昨日ヤフーで出したオバマケアの解説記事が、きのうの人気記事1位だったらしいです。
【昨日の人気記事1位】
— BLOGOS編集部 (@ld_blogos) 2017年5月9日
話題の「オバマケア」何が問題? (市川衛)https://t.co/lY5VEKs9ol [経済] #blogos
なんで?と思ってちょっとググってみたら、BLOGOSさんが告知頑張ってくださったのと、BLOGOSの記事がNEWSPICKSにピックされ、それが閲覧増につながった流れもあったみたいですね。
多様なかたに読んでいただけて本当に嬉しい限りです。
ただNewsPicksのコメントを読んでいてちょっと気になったのが、堀江貴文さんからいただいた以下のコメント。(もちろん、わたしみたいな人間の記事に、真摯なコメントをくださったことだけでも畏れ多いことということは理解しつつ)
国民皆保険はいい事だと思ってる日本人が多いが私はそうではないと思っている。まず、病気になっても格安で治してもらえると思うから予防に力を入れない。これは予防を軽視している人は保険が使えないようにすればよい。が、おそらく医師会などが猛反発してそうはならない。もう一つは特に高齢者や生活保護受給者が薬を貰いすぎる問題。そしてあまりにもカジュアルに病院に行ってしまう風潮を作り出している。この辺を解決しないといけない。
「予防を軽視している人は保険が使えないようにすればよい」という、いわゆる「自己責任論」は一見正しそうに見えるのですが、過去の研究から考えると、おそらく思ったような効果(健康増進や医療費の抑制)は出ない可能性が高いです。
そのあたりは、ハーバードの津川友介先生の見事な考察がありますのでぜひ。
健康に対して経済的なインセンティブを与えることは、格差を広げてしまうリスクがあるだけではなく、そもそも健康増進につながらないので、二重の意味であまり好ましい政策ではない
健康の責任を個人に求めること(自己責任論)の問題点 – 医療政策学×医療経済学
堀江さんはいま予防医療の啓発に力を入れておられて、それがゆえのお言葉だと思うのですが、患者・市民に対してインセンティブ(もしくはディスインセンティブ)を与えて健康を実現しようという努力は、これまでの取り組みではなかなかうまくいっていない、というのが正直なところのようです。この方法で健康を実現しようと考えるのであれば、制度設計においてかなり精緻に工夫しなければならなそうです。
誤解があるといけないので強調しますが、予防医療に力を入れることは、病気になる人を減らし、社会全体の幸せを実現するという意味で素晴らしいことです。堀江さんのような著名な方が、そこにお力を入れてくださるのは、とても素晴らしいことです。
でも、「やりたくない人には罰を与えたほうが社会全体の利益になる」などの、過去の研究ではむしろ否定されている考えをもとに行うと、良かれと思って進めたことなのに、本来望んでいた結果が達成できなくなってしまうかもしれません。
予防医療については、期待感が強い分、残念ながら少し誤解されている部分もあると思います。自分なりにさらに深く取材して、また何らかのアウトプットにつなげたいと考えています。