医療の「翻訳家」を目指して【市川衛】

医療・健康の難しい話を、もっとやさしく、もっと深く。

「政策を進めながら、検証する」ということの意義

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さいきん注目している、Lancetの姉妹誌でオープンアクセスの「The Lancet Public Health」より

https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(18)30183-X/fulltext

 The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study

 

2007年より子宮頸がん予防のためHPVワクチンを定期接種しているオーストラリアより、今後の子宮頸がん発症率と死亡率のシミュレーション。

要は、「『HPVワクチンにより本当に子宮頸がんが防げる』と仮定するなら今後、このくらいは減るはずだよね?」ということを、年齢別の人口や検診の受診率などを含めて推定した研究です。

 

2020年以降は、年とともに右肩下がりに減るはず、という予測を立てています。

 

個人的には、この研究のポイントは、「減るはず」とする結果そのものではないと感じます。


シミュレーションを出すことにより、予測通りに進めば「効果があった」ということが確かめられるし、そうでなければ「何かが間違っているらしい(HPVワクチンの接種により、子宮頸がんは防げないかもしれない)」ということが明らかになります。

 

要は「政策をいち早く検証できる」ということに意義があるのかもしれません。

 

研究の予算は、オーストラリア国家保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council )、つまり国の機関から出ています。


政策として新たなワクチンを導入する一方で、その効果を検証する取り組みが同時に進められ、しかもオープンアクセス(誰もが無料で見られる場所)に公開されていることが本当にすごい。

 

「9価ワクチンを接種した世代に子宮頸がん検診を実施することに意義があるかどうか」までシミュレーションしているところに凄みを感じます。。。

(ちなみに、「意義がある」と結論)

 

きょう読んだこの記事にも関連するのですが、

 

「国や公的な研究機関は、自らの意思決定(どの医薬品や研究にお金を投じたか)に責任を持つべきだし、それを検証して誰もが無料でアクセスできる場所に置くべき」

 

という考えは、まっとうだなと感じます。

r.nikkei.com