超音波で認知症を改善する?治験開始の新たな治療法の論文を読んでみた
本日、こんなニュースが話題になりました。
認知症、超音波で進行抑える 東北大が治験へ
東北大学の下川宏明教授らは19日、超音波を使い認知症の進行を遅らせることを目指す医師主導の臨床試験(治験)を6月中にも始めると発表した。患者の頭部に超音波を当てて、原因となるたんぱく質がたまりにくくする。認知症を超音波で治療する治験は初めてという。治験は軽度の「アルツハイマー型認知症」と、その前段階にあたる軽度認知障害の患者を対象にする。まず東北大病院で50~89歳の5人に対し、低い出力で超音波をあてて安全性を確認。その後40人規模に拡大し、1年半かけて効き目も確かめる。
「超音波でアルツハイマー病治療」というのは恥ずかしながら初耳だったので、関連する論文がないか探して見ると、下記の論文が無料公開されていました。
Whole-brain low-intensity pulsed ultrasound therapy markedly improves cognitive dysfunctions in mouse models of dementia - Crucial roles of endothelial nitric oxide synthase.
Eguchi K et al. Brain Stimul. 2018 May 22. pii: S1935-861X(18)30159-1.
Eguchi K et al. Brain Stimul. 2018 May 22. pii: S1935-861X(18)30159-1.
ハイライトとしてまとめられていたのは次の5点
- 脳全体に低強度パルス超音波(LIPU:low-intensity pulsed ultrasound)を使った治療を行うことで、認知症の2種類(★)のモデルマウス(人為的に認知症のような状態を再現したマウス)において有効で、かつ安全上の問題がなかった。
- LIPUSは、血管性認知症のマウスモデルにおいて血管新生およびOPC発生を増強した。
- LIPUSは、アルツハイマー病のマウスモデルにおいて血管新生を増強し、Aβを減少させた。
- 血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)は、2種類のモデルマウスにおけるLIPUSの有益な効果に重要な役割を果たしていると考えられる。
- 脳全体に対するLIPUS療法は、ヒトにおける認知症の新しい戦略である可能性がある。
低強度パルス超音波(LIPU:low-intensity pulsed ultrasound)とは
現在、診断などに用いられている超音波装置を使用。中心波長?= 1.875MHz; パルス繰返し周波数= 6.0kHz; サイクル数= 32(17-μsバースト長)、空間ピーク時間平均強度= 99mW / cm2
超音波ビームは、扇形のプローブから送達され、超音波を脳全体に適用するために9cmに集束された。 脳組織の各深さにおける超音波ビームの幅は、3.6〜4.0mmの範囲であった。
(注)このへん全く詳しくないので、単に直訳しただけです。。。
論文を斜め読みして印象に残ったこと
※LIPU治療をマウスに行ったところ、血流の改善や一部のグリア細胞の増加などが観察された
つまりメカニズムとして、
LIPU照射→eNOSのアップレギュレート→血流の改善やグリア細胞の増加→認知機能の改善
という可能性が考えられるということか。eNOSはNOの産生を通じて血管内皮機能の改善に役立つことはよく知られているが、論文によれば、グリア細胞との関連や海馬における長期記憶との関連も指摘されているとのこと。それは初耳。面白い。特定の周波数の超音波をあてることが、なぜeNOSのアップレギュレートにつながるのかは知りたいなあ。もうすこし関連の論文も読んでみよう。
個人的な感想
血流の改善は確かに脳内環境に良い影響が出る気がするし、超音波は薬剤に比べれば安価、ということで日本発の期待できる治療法になる可能性を感じる。