医療の「翻訳家」を目指して【医療ジャーナリスト 市川衛】

医療・健康の難しい話を、もっとやさしく、もっと深く。

あたらしい1年にむけて

f:id:mam1kawa:20181013221147j:plain

 

いきなりですが、10月13日(土)をもって41歳になりました。

あれ?先月あたりに40歳になった気がしていたのですが。。。本当に1年って、早いもんですね。。。。

 

この1年は、いろいろと新しいことをするチャンスを与えていただいた一方、あまりのハードルに七転八倒して、自分のいたらなさに絶望することも有りました。とはいえ、まあ、無事に誕生日を迎えられて良かったと思います。

 

せっかくの誕生日なので、個人的な話をします・

 

自分にとって今年って、「医療とか健康の情報発信を自分のメインテーマに据えよう」と思い立って、だいたい10年目なんですよね。

 

この10年、ひたすらにこの分野の番組を作り、大学院に通院して見たり、ネット記事書いたり講演したり海外の大学に客員研究員で行ったりと、色々ヘンなことをやりました。それを通じて、ひったすら医療とか健康の分野の取材と勉強を続けてまいりました。

 

それでつくづく思い知ったのは、

医療とか健康というめちゃめちゃニッチな分野でさえ、

表層だけでも理解するには、最低でも10年くらいはかかるのだな、ということです。

(まあ、わたしだけかもしれませんが)

 

10年かかるんです。

たとえば医師の働き方問題を語るのであれば、現場で真摯に働いている人たちに会い、ときには当直室に寝かせてもらって、その実情を知らなければなりません。

そのうえで、「応召義務」とはなんなのか?いつごろどんな議論の中で法律に取り入られて、どんな判例がこれまであったのか?という、臨床家の方がおそらくはあまり知らないようなことを勉強しなければいけません。

あと、診療報酬制度はもちろん、現場で働いている医師以外の職種のかたがたがどのようなかかわりをしているのか?というところも実感としてわからないと記事をかけません。

 

そこまでしないと、現場にいるかたの納得感を持って伝えることは難しい、ということを、10年たってやっと思い知ることが出来ました。

 

えらそうなことを言っておりますが、私自身、取材をしはじめたばっかりの時代は・・・とにかく見られたり読まれたりすることばっかりを考えて

 

※「夢の新薬が登場」というようなニュアンスの番組を作ったり

※福祉の分野で革新的な取り組みをしているかたの話を聞いて、「でも主役は医療だしね」という、非勉強極まりない感想を心に思ってしまったり

 

ということも正直、あります。

 

でも石の上にも10年、といいますか、10年いろいろな失敗を繰り返しながらもコツコツ続けていくと、あるニュースをみたときに、これこそが情報の「本質」だ!ということが見えてきたのではないか?と感じることが増えました(幻想かもしれませんが)

 

コツコツやり続けることは、自分を裏切らないなあ。。。と思います。

 

とはいえ、その一方で、「医療を伝えようとしたら最低10年修行すべし!!」

とか言う考えを主張するようになっちゃうと、せっかくその分野を目指そうとしてくれた若い世代のガッカリにつながり、今後の業界全体のシアワセにもつながらない気がしますので・・・

 

次なる1年のひとつの目標としては

 

※「あるテーマを精一杯取材し、取材対象者や読者のシアワセのために努力する」というプロセスは、取材者自身にかけがえのない「楽しみ」や「発見」、そして「成長につながる挫折」を与えてくれるかを、ワクワクできる形で後輩に伝えていく

 

※僕じゃないいまの若い人たちは、もっと短く成長できるよきっと!!

ということをお伝えしていけるようになる

 

ありがたいことに、発信者の後輩たち(メディア関係者、医療者)に偉そうにお話しできる機会をたびたび与えていただけるようになったし。

 

最近、SNSやリアルで、自分なんておよびもつかないスゴイ人と親交を持たせていただくようになって、自分の至らなさや情けなさを思い知った1年でもあるけど。。。

 

自分に出来ることを、むりせず、ただ淡々と続けていく1年になれればと思っています。ご関係の皆様、未熟者のお相手させてしまって申し訳ありませんが、あたらしい1年も、仲良くしてやってください!

 

何とぞ、宜しくお願いいたします

「政策を進めながら、検証する」ということの意義

f:id:mam1kawa:20181007205512j:plain

さいきん注目している、Lancetの姉妹誌でオープンアクセスの「The Lancet Public Health」より

https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(18)30183-X/fulltext

 The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study

 

2007年より子宮頸がん予防のためHPVワクチンを定期接種しているオーストラリアより、今後の子宮頸がん発症率と死亡率のシミュレーション。

要は、「『HPVワクチンにより本当に子宮頸がんが防げる』と仮定するなら今後、このくらいは減るはずだよね?」ということを、年齢別の人口や検診の受診率などを含めて推定した研究です。

 

2020年以降は、年とともに右肩下がりに減るはず、という予測を立てています。

 

個人的には、この研究のポイントは、「減るはず」とする結果そのものではないと感じます。


シミュレーションを出すことにより、予測通りに進めば「効果があった」ということが確かめられるし、そうでなければ「何かが間違っているらしい(HPVワクチンの接種により、子宮頸がんは防げないかもしれない)」ということが明らかになります。

 

要は「政策をいち早く検証できる」ということに意義があるのかもしれません。

 

研究の予算は、オーストラリア国家保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council )、つまり国の機関から出ています。


政策として新たなワクチンを導入する一方で、その効果を検証する取り組みが同時に進められ、しかもオープンアクセス(誰もが無料で見られる場所)に公開されていることが本当にすごい。

 

「9価ワクチンを接種した世代に子宮頸がん検診を実施することに意義があるかどうか」までシミュレーションしているところに凄みを感じます。。。

(ちなみに、「意義がある」と結論)

 

きょう読んだこの記事にも関連するのですが、

 

「国や公的な研究機関は、自らの意思決定(どの医薬品や研究にお金を投じたか)に責任を持つべきだし、それを検証して誰もが無料でアクセスできる場所に置くべき」

 

という考えは、まっとうだなと感じます。

r.nikkei.com

女性医師は迷惑な存在なのか?

8月末に公開した記事が

ヤフー!Japan個人のMVA(月間優秀記事)をいただきました。

news.yahoo.co.jp

 

ありがたいなあ。。。。

「こんなに心を込めて書いても、きっと読まれないんだろうなあ・・・

ひとりでも多くの人に届きますように」と思って公開ボタンを押した記事なので

 

そんな驚きの中で、つい熱くなって書いた

受賞コメントがこちらです

誰かを声高に批判したり、自分の考えを押し付けたりするのではなく、読んだ人がそれぞれに何かを感じて、前向きな議論に進むお手伝いになるような記事をずっと書きたいと思っていました。

 

入試不正のニュースが話題となっているタイミングで、わかりにくい部分もある本記事が多くの人に読まれたことに、驚きと感謝の念を抱いています。

 

SNSでこの記事を論評してくださっているコメントをひとつひとつ拝読し、もしかしたら、ほんのほんの少しだけですが、この問題に対し前向きな議論が起きるお役に立てたのではないかと感じています(幻想かもしれませんが)。

 

時差にもかかわらずドイツからインタビューを受け、内容確認にも真摯に対応してくださった岡本真希さんに心からの感謝をささげます。本当にありがとうございました。

 

せっかく受賞したのに、なんでそんな卑屈なの??

 

って編集者さんにも言われてしまったけれど

 

そういう人間なので仕方がない

 

まだご一読いただいていない方がいらしたら

どうかご一読くださいませ

 

news.yahoo.co.jp

むずかしいことをやさしく、ふかく、まじめに、ゆかいに

台風のスキをついて、那覇で「睡眠負債」をテーマに講演してきました。

 

f:id:mam1kawa:20180804215224p:plain

 睡眠の大切さや、日々の生活がちょっと豊かになるTips、笑いも出て盛り上がってよかった。。。

 

終わって国際通りを歩いていたら、「お話聞きました!」とわざわざ声をかけてくれる人までいて、至福であります

 

偉そうに難しげなことをお話しすることも増えたけど、やっぱり自分が目指したいのは「むずかしいことをやさしく、ふかく、まじめに、ゆかいに」お伝えできるようになることなんだと改めて実感。

 

実現に動いてくださったみなさま、そして何より、聞いてくださったみなさまに心から感謝。このネタは身近だし汎用性があると思うので、これからも機会があればお話ししていきたい。。。

 

f:id:mam1kawa:20180804215453j:plain

f:id:mam1kawa:20180804215554j:plain

f:id:mam1kawa:20180804215634j:plain

 

 

「伝える」仕事の奇跡と責任について

f:id:mam1kawa:20180703233709j:plain

 

今日は以前、お仕事で取材させていただいた企業さんの技術展覧会にお邪魔してきました。

 

番組と記事でご紹介したことがきっかけになり、問い合わせが殺到したことで、展覧会が企画されたのだそうです。

 

会場には日本有数の大企業から、海外の企業まで1000人近いご担当者が参加されて、熱心に技術の説明に耳を傾けていらっしゃいました。まだ生まれたばかりの技術ですが、もしかすると日本はおろか世界に出ていき、社会を変えていくのかもしれない、と思わされる熱気が漂っていました。

 

「このアイデアは、世に広めるべきだ」

 

わたしは何も生み出さない、「伝える」だけの立場の人間ですが、そう心から思ったときに、奇跡のようなことが起きることがあるんですね。
(残念ながら、力及ばず失敗することのほうが多いのですけれど。。。)

 

またこういう奇跡のような瞬間に出会えたらいいな。

 

そのためにも、アイデアを生み育て来られた人たちと時間をかけて議論することや、どうすればその本質が伝えられるかを死ぬ気で考えるような、ついつい忘れてしまいがちな丁寧さを大切にしていけるようがんばろう

 

と深夜にエモい独りごと投稿申し訳ございません。

 

超音波で認知症を改善する?治験開始の新たな治療法の論文を読んでみた

f:id:mam1kawa:20180620173905j:plain

本日、こんなニュースが話題になりました。

 認知症、超音波で進行抑える 東北大が治験へ


 東北大学の下川宏明教授らは19日、超音波を使い認知症の進行を遅らせることを目指す医師主導の臨床試験(治験)を6月中にも始めると発表した。患者の頭部に超音波を当てて、原因となるたんぱく質がたまりにくくする。認知症を超音波で治療する治験は初めてという。

 治験は軽度の「アルツハイマー認知症」と、その前段階にあたる軽度認知障害の患者を対象にする。まず東北大病院で50~89歳の5人に対し、低い出力で超音波をあてて安全性を確認。その後40人規模に拡大し、1年半かけて効き目も確かめる。

  「超音波でアルツハイマー病治療」というのは恥ずかしながら初耳だったので、関連する論文がないか探して見ると、下記の論文が無料公開されていました。

Whole-brain low-intensity pulsed ultrasound therapy markedly improves cognitive dysfunctions in mouse models of dementia - Crucial roles of endothelial nitric oxide synthase.
Eguchi K et al. Brain Stimul. 2018 May 22. pii: S1935-861X(18)30159-1. 

ハイライトとしてまとめられていたのは次の5点

  1. 脳全体に低強度パルス超音波(LIPU:low-intensity pulsed ultrasound)を使った治療を行うことで、認知症の2種類(★)のモデルマウス(人為的に認知症のような状態を再現したマウス)において有効で、かつ安全上の問題がなかった。
  2. LIPUSは、血管性認知症のマウスモデルにおいて血管新生およびOPC発生を増強した。
  3. LIPUSは、アルツハイマー病のマウスモデルにおいて血管新生を増強し、Aβを減少させた。
  4. 血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)は、2種類のモデルマウスにおけるLIPUSの有益な効果に重要な役割を果たしていると考えられる。
  5. 脳全体に対するLIPUS療法は、ヒトにおける認知症の新しい戦略である可能性がある。
★2種類・・・脳血管性認知症モデルと、アルツハイマー認知症モデル
 
低強度パルス超音波(LIPU:low-intensity pulsed ultrasound)とは
現在、診断などに用いられている超音波装置を使用。中心波長?= 1.875MHz; パルス繰返し周波数= 6.0kHz; サイクル数= 32(17-μsバースト長)、空間ピーク時間平均強度= 99mW / cm2
超音波ビームは、扇形のプローブから送達され、超音波を脳全体に適用するために9cmに集束された。 脳組織の各深さにおける超音波ビームの幅は、3.6〜4.0mmの範囲であった。
(注)このへん全く詳しくないので、単に直訳しただけです。。。

論文を斜め読みして印象に残ったこと

※LIPU治療をマウスに行ったところ、血流の改善や一部のグリア細胞の増加などが観察された
※しかしeNOS(血管内皮型一酸化窒素合成酵素)ノックアウトマウスでは効果は見られなかった
 つまりメカニズムとして、
LIPU照射→eNOSのアップレギュレート→血流の改善やグリア細胞の増加→認知機能の改善
という可能性が考えられるということか。eNOSはNOの産生を通じて血管内皮機能の改善に役立つことはよく知られているが、論文によれば、グリア細胞との関連や海馬における長期記憶との関連も指摘されているとのこと。それは初耳。面白い。特定の周波数の超音波をあてることが、なぜeNOSのアップレギュレートにつながるのかは知りたいなあ。もうすこし関連の論文も読んでみよう。

個人的な感想

 血流の改善は確かに脳内環境に良い影響が出る気がするし、超音波は薬剤に比べれば安価、ということで日本発の期待できる治療法になる可能性を感じる。
 ただ純粋な疑問として、eNOSがポイントだとすれば、単に「運動」するだけでも良いんでないか?ということ。実際に定期的な運動習慣に、認知症の予防効果がるとするエビデンスは蓄積している。脳血管のeNOSを選択的にアップレギュレートできることで効果が高いという意義や、何らかの事情で運動ができない人の助けになる、という意義があるということなのかな。。。 
 
 いずれにせよ、ユニークなメカニズムに着目して有望な実験結果を積み重ね、治験までたどり着いたことは素晴らしい。正直、有効性を示す結果が人間で出るかどうかは予断を許さない部分があるとは思いますが、真摯に研究を続けられる皆様に、敬服の意を表します。
 認知症を抱えたり、そのリスクが高い人の救いに1mmでもなりますように。
 
※勉強&忘備録のため読んだ論文をブログに書いていこうと思います。内容に誤りや誤解がございましたらぜひご指摘くださいませm(_ _)m

認知症を抱える方や周囲の方をささえるテクノロジーとは

f:id:mam1kawa:20180416231925j:plain

 

モデレーターを務めたHealth2.0のセッションを記事化していただきました。よかったらご一読くださいませ。

認知症を抱える方、ささえる方、それを包む社会全体に対して何ができるか、情熱をもって取り組まれている人たちと話し合えた時間、楽しかったなあ。

セッションをまとめる一言。いつも悩みます。
当たり前すぎる!と思われるかもしれませんが、率直に胸の中に生まれた印象を言葉にしました。

『サービスを作る際に、認知症の「症状」に最適化するのではなく、受ける方がそのサービスを使いたいと思うか、その人のお役に本当に立つのか?を考えていくことが大事だと感じました。』

healthtechplus.medpeer.co.jp